午後

 店の奥、窓側の席。出窓では名前の知らない植物が花を咲かせている。緩やかに曲線を描く木の模様、キャラメル色の机。温もりのある木製の椅子と、青緑色の壁、所々に飾られた植物で店内は統一されている。雑貨屋のようで可愛らしいと思い、何度か訪れているお気に入りのカフェだ。手元のカップの白さが眩しく、コーヒーの水面が揺れている。まろやかな黄色の陽が照らして、角砂糖の入った瓶が淡い影を落とす。

 ふと外を見ると、店の前を寒さに身を縮めながら、たくさんの人達が横切っている。その中で、黄色の髪がふわりと揺れた。見知った顔だとわかり、軽く手を振ってみる。相手はこちらの姿を認めると、怪訝な顔をしながらも向かってきた。店のドアを開け、からん、とちいさな鐘の音を鳴らす。店員と二言ほど話しやって来た。足取りは早い。
「早すぎやしませんか」
「早めに来てゆっくり待つ時間が好きなの」
 と、私はコーヒーを一口飲む。香ばしい匂いが広がって心地良い。
 へえ、と気のない返事をして、上町は向かいの席に腰を下ろす。椅子に上着を掛けた時、わずかに冬の空気と、油絵の具の匂いがした。鼻がすこし赤い気がする。
「で、何の用ですか」
「まあまあ、まずは何か飲み物でも頼みなよ」
 私は机の脇にあったメニューを渡す。上町は受け取りながらも質問してきた。
「長くなるんですか」
「そこそこ、いや、結構かも」
「それ先に言ってくださいよ」
「いいじゃない、今日は奢るから。ゆっくり話を聞いてほしい」
 彼は軽く俯いて、長く息を吐いた。

 暫くの間の後、観念したように、顔を上げた。
「わかりました、
 ただ、メロンソーダを頼んでも良いですか」
「もちろん」
「出来ればケーキセットで」
「あ、私もそれにする」
「種類何があるか分かりますか」
「知らない、からちょっと見せて」
「じゃあ、選び終わったらまた渡してください」
 デザートのページが開かれて返される。様々なケーキが手描きのイラストで描かれていて、脇に簡単な説明が添えてある。何となく果物が食べたいと思ったので、フルーツタルトにする。決まったよ、と伝える。上町は外の景色を頬杖をついて眺めていた。視線をこちらに向ける。
「決めるの早いですね」
「あんまり悩んでても決まらなくなるから、第一印象で決めることにしたの、最近」
「そうですか」
 メニューを受け取って見るや否や、
「……ケーキ以外も結構種類ありますね、ここ」
 珍しく、上町は悩み始めた。
 私は小振りのカップに入ったミルクを、手元にある焦茶色の海に入れる。白色は広がり、溶けていく。

 ゆらゆら揺れる歪な模様をかき消すように、私はスプーンでかき混ぜた。

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